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2025.12.18

【起業家の必須知識】スタートアップのバリュエーションはどう決まる?「言い値」と言われる実態と算出ロジック

S&K Holdings

「あなたの会社に5,000万円出資しましょう」

投資家からそう言われたとき、あなたは自社の株式を何パーセント渡すべきか即答できますか?

ここで必要なのが「バリュエーション(企業価値評価)」です。上場企業なら市場が株価を決めますが、実績のないスタートアップの場合、価格設定は難解かつ最重要の交渉ポイントです。

本記事では、Voicy「No.339 スタートアップのバリュエーション」をもとに、教科書的な算出方法の限界と、実際の投資現場で価格が決まる実態を解説します。

バリュエーションとは何か?なぜ重要なのか

バリュエーションとは、平たく言えば「会社の値段」です。

資金調達の際、投資額に対して会社の所有権(株式)をどれだけ渡すか決める基準です。

例えば、5,000万円の出資に対して「会社の価値は5億円」なら10%の株式放出で済みますが、「価値は1億円」なら50%も渡す必要があります。

起業家は「株を放出しすぎずに資金を得たい」、投資家は「安く多くの株を取得してリターンを最大化したい」。この相反する利害を調整するため、納得感のあるバリュエーション算出が不可欠です。

教科書的なアプローチ①:DCF法と「お金の時間的価値」

企業価値を算出する最も基本的な考え方に、DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法があります。

「会社が将来生み出す現金の合計を、現在の価値に割り引いて計算する」方法です。

「今の1万円」と「来年の1万円」は価値が違う

ファイナンスの世界には、「お金の時間的価値」という大原則があります。

今日の1万円と1年後の1万円では、今日の1万円の方が価値が高いのです。なぜなら、今の1万円を運用すれば、1年後には利子がついて増える可能性があるからです。

そのため、将来稼ぐ利益を「現在の価値」に換算し直す必要があります。

スタートアップにおけるDCFの限界

理論上は最も正しい算出方法です。しかし、スタートアップではほとんど機能しません。

創業期のスタートアップに「確実な将来」は存在しないからです。

「3年後に売上10億」という事業計画も、あくまで「絵に描いた餅」。不確定要素が多すぎ、変数を少しいじるだけで計算結果が何倍も変わるからです。

そのため、シード・アーリー期のスタートアップがDCF法の数字だけで投資家を説得するのは困難です。

教科書的なアプローチ②:マルチプル法(類似会社比較法)

もう一つの代表的な手法が、上場済みの類似企業(競合他社)の指標を参考にする「マルチプル法」です。

「同業のA社は利益の20倍の時価総額がついている。だからウチも利益の20倍で評価してほしい」というロジックです。

分かりやすい指標ですが、スタートアップに当てはめると問題が起きます。

急成長を目指すスタートアップは、初期は赤字覚悟で投資を先行させるため、利益が出ていないか、売上が小さいケースが大半です。

上場企業の倍率をそのまま当てはめると、スズメの涙のような企業価値になり、資金調達が成立しません。

スタートアップの現実:結局は「相場」と「握手」

では、実際の現場でバリュエーションはどう決まるのでしょうか?

結論、特に初期フェーズは「市場の相場観」と「投資家との合意(握手)」、いわば「言い値」に近い形で決まるケースがほとんどです。

市場の「相場観」とは

トマトに相場があるように、スタートアップ投資にも「このフェーズならこれくらい」という暗黙の相場があります。

  • シードラウンドなら、数千万円調達して、放出割合は10〜15%程度
  • シリーズAなら、数億円調達して、放出割合は10〜20%程度

このように「今回の調達額と放出してもいいシェア」から逆算し、バリュエーション(時価総額)が設定されることが多いのです。

「言い値」は「いい加減」ではない

「適当だ」と感じるかもしれませんが、実際は需要と供給のバランスです。

「この会社は将来化ける!」と多くの投資家が思えば、実績ゼロでも高いバリュエーションがつきます。逆に、魅力的なストーリーがなければ、どれだけ緻密な計算書を出しても投資はつきません。

最終的には、起業家と投資家が「この価格なら一緒に夢を見られる」と握手できる点を探る、高度な交渉ゲームです。

それでもロジックが必要な理由

「言い値なら計算は無意味では?」と思うかもしれません。しかし、「なぜその価格か」を説明するロジックは必須です。

投資家も出資者への説明責任があり、「なんとなく」で数千万円は動かせないからです。

「類似企業より高い成長率が見込めるため、このプレミアム価格が正当」と相手を納得させる材料として、数値計画やロジックが必要です。

また、起業家にとっても安易な設定は命取りです。初期に株を安売りしすぎると、後のラウンドで経営権を維持できない、資金調達が詰むといったリスクがあります(資本政策の失敗)。

正解がない世界だからこそ、相場観を養い、自社の価値を論理的に語る準備をする。それが、スタートアップのファイナンスにおける最初の一歩です。

まとめ:正解のない問いに「納得解」を作る

スタートアップのバリュエーションに、絶対的な数式はありません。理論を知ることは重要ですが、縛られすぎるのは危険です。

重要なのは、市場の相場観を理解し、投資家が「その価格で買いたい」と思える成長ストーリーと根拠を提示すること。

数値と情熱、論理と相場観。そのバランス感覚こそ、起業家に求められるファイナンス能力です。

ワンポイント英語スラング「Fuss」

今日のスラングは「Fuss」です。

「無用な大騒ぎ」「空騒ぎ」「過剰な興奮や心配」を意味します。大したことではないのに、周りが騒ぎ立てたり過剰反応したりする状況を表す言葉です。

代表的なフレーズは以下の通りです。

  • “Don’t make a fuss.”(騒ぎ立てるなよ/大ごとにしないでくれ)
  • “What’s all the fuss about?”(何をそんなに騒いでいるの?/何がそんなに話題なの?)

ビジネスシーンでも、トラブル時に「落ち着いて対処しよう」という意味で使える便利な表現です。

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